2006年3月29日水曜日、イムジン川と対岸の北朝鮮を望む「烏頭山(オドゥサン)統一展望台」と、板門店とに行ってきた。私は1993年8月に1回板門店には行ったことがあるので、2回目の見学であった。
オドゥサン統一展望台は、1992年に開館した、標高118mの丘の上にあるもので、三国時代に高句麗と百済が争奪を繰り返した砦だった。ソウルからバスで1時間20分で着く。韓国の人が自由にイムジン川越しに北朝鮮を見に行ける数少ない場所である。日本人も個人で自由に行ける。しかし、板門店は旅行社主催のツアーでしか行くことができないし、様々な制約を受ける。
前回は板門店見学のみのツアーに参加したため、今回はイムジン川をゆっくり見られるこの統一展望台を途中コースに入れている、「板門店Travel Center」のツアーを選んで参加した。費用8300円である。私はフォーククルセイダーズがアレンジした『イムジン河』の曲に、勝手に南北の人々の悲しみを感じ涙した世代であり、イムジン川をぜひ見てみたいと思っていたのである。
このツアーのもう一つの特徴は、脱北者が展望台まで同行し、「北」の実情を語るということにある。参加者の一人は「それでこのツアーを選んだ」と言っていた。
ツアー参加には必ず予約が必要で、またパスポート持参が義務付けられている。
ロッテホテルの駐車場の指定バスに乗った。この日は２台も出ることになっていた。座席は当然指定されている。ガイドは「じゃあ皆さ〜〜ん。」が口癖の日本語堪能な30前後の女性。慣れていて、「太ったりしてパスポートの写真と顔が違うようになった人はチェックを受けるまで直しておいてください。」などとユーモアも交えながら説明してくれた。ガイドの座席の隣には40前後の女性の脱北者がいた。「喜び隊にいました。」と言われたら「ああそうか」という感じの人だった。
ツアーバスと統一展望台
烏頭山統一展望台からのイムジン川と北朝鮮
左側に、二重の鉄条網を付けた漢江(ハンガン。ソウルを通る大きな川)を見ているうちに展望台に到着。外国人向けの説明会場に通され、ビデオを見る。大学の階段大教室のような部屋(展望台の写真で青いガラスを丸くめぐらしている上の階の方)。正面にガラス越しだが、イムジン川と対岸の北朝鮮がパノラマのように見えた。写真撮影、ビデオは自由。こちらから見るようになってから、「北」も「いい生活」を誇示するかのように対岸の村を装ってきたとのこと。この展望台はちょうど漢江とイムジン川が合流する地点で、海にも近くて潮の満ち干きの影響を受け、水量が増減するとのこと。川の真ん中が軍事境界線(軍事分界線)。かつて川を泳いで北から侵入しようとしたので川岸に鉄条網を敷いたとのこと。この辺で近いところで向こう岸まで460m、遠いところだと3.2km。川はカワフグ、ウナギやサワガニの宝庫だそうだ。
現地のイメージ模型展示。手前左端に展望台。左下から上へ漢江、右から左へイムジン川。向こう側が北朝鮮。
左はガラス越しに見た漢江とイムジン川。右は展望台建物の外から撮ったイムジン川と対岸の北朝鮮。歌のイメージに合っている。
200ミリ望遠を付けて撮った北朝鮮。私の友人の化学の教員は「土地が赤っぽくて痩せているね。」と言っていた。後でよく見たら、人らしきものと金網が。
1950年6月に始まった朝鮮戦争は、アメリカ軍と中国軍の参戦で一層激戦となったが、1953年7月に休戦した。そのとき、北緯38度線近辺に「軍事境界線(分界線)」が設置され、両国間の国境のようになった。これにそって南北双方が幅2kmの「非武装地帯」を設けた。ここでは軍事活動をやらないことになっている。しかし、地雷が設置されている。韓国ではさらにそれに沿って幅3kmから20kmで「民間人統制線」という自主規制ラインを設けている。一般の韓国の人は自由にこの線から北には行けないし活動できない。上の地図はその関係を図式化したもの。下に示すようにこの統一展望台のあたりは、上の図と違って軍事境界線と民間人統制線がほぼ一致している唯一のところである。
地図中の赤い線が軍事境界線、緑の点線までが非武装地帯、右上からのオレンジの点線が「民間人統制線」。オドゥ山統一展望台のあたりで、イムジン川の真ん中の軍事境界線のみとなり、非武装地帯がなくなる。展望台の中には、北朝鮮の小学校の教室や一般の人の家の部屋がそのままの大きさで再現されていて、脱北者から「あの家の中に掛かっているカレンダーを見てください。金日成の誕生した年を元年にしているので、今年は95年になっているでしょう?」などの説明を受けた。また、彼女は「金日成が亡くなった時は職場も学校も1カ月喪に服しました。『泣き続けろ』と言われたので泣きましたが、さすがに涙が出なくなったので唾を付けて泣いたふりをしました。」「女性も軍事演習をします。私は銃の名手として何回も賞をもらいました。」「中国に脱出し潜伏していました。ブローカーに頼り、モンゴルまで行き、やっと最後に韓国に来ました。家族はまだ北にいます。私がお金を先ず貯めて皆を呼び寄せたいです。」など貴重な話を語ってくれた。
