祖先祭と祭天(満州族固有の宗教行為)
満州族は、あらゆるものに霊魂を認めるアニミズムを基本とし、その中でも最高神を「天神」とし、あらゆるものを支配していると考え、さらに先祖も神として祭った。そして、神々と人とを結ぶものとしてシャーマンを尊重した。かつての定住後の民家では、外に3mくらいの高さの索羅杆子(スオロガンズ)という竿を立て、天を祭る時使い、また母屋の西側の部屋の西面の壁に「祖宗板」を置き，上に「祖宗箱」を乗せ、中に祖先像と家譜を入れておいた。
ホトアラ城テーマパークにあるヌルハチの祖先の家の復元。赤い箱を付けた杆子(竿)が見える。
母屋
西側の壁にある祖宗板と祖宗箱。黄色い布(黄蒙子)は神の帷(とばり)としているもの。下の方の長持の上に供え物をしている。
新年の前後に祖先祭が行なわれる。「豚を外から部屋の中に追い込んで・・・その頭を西に向かわせ、前足を持ち上げて、人間が半ば起きあがる格好にしながら、耳に酒を注ぎ込む。もし豚が叫んで頭を動かせば、神がすでに牲を受けられたとする。そのあとはじめて豚を殺す。・・・多くは夜間、暗がりで行われた。」(『中国少数民族の信仰と習俗 上巻』王汝瀾訳p8)この時、家々はシャーマンに「跳神」という神懸った踊りをしてもらう。「シャーマンは神帽をかぶり、その上から綴った五色の細長い紙を垂らして顔を蔽う。・・シャーマンは長い布製のスカートをはき、腰に銅の鈴をつけて、太鼓を叩き舞いながら、口の中で何ごとか唱える。」(同上書p9)西壁が神聖な場所となったことについては、「祖先がかつてテントや竪穴式住居で生活し、北アジアに吹く強い西風を避け、また採光の便も考慮して扉を東方に向けたことに由来したと考えられる。すなわち・・・扉を入るとちょうど正面が住居の最奥部となる。そのため住居の西部が最も上位置とされ、シャマニズムの神位神像はじめ重要なものがそこに置かれることになった。そして常にその前で西向して儀式が行われると、やがては西の方角や西という位置までも神聖視されるようになった。」(今井秀周著「神祖を西壁に祭った満州族の習俗について」『東海女子短期大学紀要27』p10〜11)
シャーマンのイメージ(瀋陽故宮の展示より)
祖先祭りの翌朝、祭天儀礼を行う。庭の杆子の前に神座を設け、シャーマンに祈祷の言葉を述べさせ、また、杆子に付けた錫の箱の中に豚の内臓を入れ、満州族が民族誕生にあやかるとして神聖視するカササギに与える。人々は木竿に向かってひざまずき、天の神と祖先の加護を祈る。祭祀が済むと、水炊きした豚肉を一家で分け合って食べる。
瀋陽故宮の展示より
このような宗教的風習は、1937年に現黒竜江省北部の散村をフィールドワークした秋葉隆氏によるとまだ残っていた。
秋葉隆著『満洲民族誌』(東方国民文庫)より
