「一体何種類民族衣装があるのか?!」
2019年7月5日に、スタジアムで「踊りの祭典」が始まり、2番目の出し物として女性たちによる統一した「群舞」が始まって、出演している数百人もの彼女たちのそれぞれ着ている衣裳を見たとき、そう感動した。被り物も大きな頭巾のようなものあり、房付きニット帽のようなものあり、鉢巻のようなものありである。ブラウスは白いが、着けているヴェストやショールの色は黒、赤、青、緑、黄色などありで、またそれぞれの形が違うのが男性の私でもわかる。ヴェストやショールを着けないものもある。スカートの色も様々、デザインも縦ストライプあり、横ストライプあり、花柄あり、ストライプ無しもある。またエプロンの色も様々。エプロンを付けないものもある。
日本民族の女性の今日着る伝統衣装は、振袖、留袖、浴衣などの違い、色や模様の違いは千種万別あるが、単衣に帯の「着物」という括りでまとめられる(ただし、琉球の伝統衣装は少し違うことを考慮すべきであるが)。そして朝鮮民族の民族衣装も色の組み合わせはいろいろだが、チマチョゴリで括られる。こういう東アジアの常識がエストニアでは通用しない。女性衣裳の共通点は、「皆ブラウスとスカートを身に着け、ベルトをしている」としか言いようがない(1種類だけ、ブラウス無し?と思われる「民族衣装」?があるが)。この「おそらくは100種類を超えるように見える衣装の総合体がエストニアの民族衣装だ」ということになろう。
私は、エストニアで直接見た、人々が実際に着ていたそれぞれの民族衣装についてその地域を調べたいと思った。歌の祭典の前に、会場に向かう民族衣装で身を包んだパレードの人々とそれぞれのグループのプラカードの写真も撮り、現地で「定番」らしい本を購入し、またインターネットで様々見ていこう、と取り組み始めた。タルトの国立博物館で地域名をばっちり記した民族衣装をまとったマネキンもすべて写真を撮ったので参考にできる、とたかをくくっていた。
しかし、とりかかってみると、「パレードのプラカードに地域の名が記されているからすぐわかるだろう。」と安易に考えていたが、パレードはコーラスグループごとで、プラカードには地域名ではなくコーラスグループ名のみ記したものが多く、また、地域名があるものの、全く違う地域の衣装をまとっているものもありで、苦戦した。本の中の図や博物館で撮った写真どおりの衣装もなかなか私の写真の中に見当たらない。エストニアの本やインターネットもすべての地域のものを紹介しきれていない。グーグルの翻訳機能を駆使してエストニアの該当インターネットも結構見たが、こちらの写真も私の写真と一致するものが少ない。「被り物、ブラウスの刺繍は一致するが、襟が無い、スカートやエプロンの柄が違う。」などたびたびであった。画像検索機能も使ったが、私の写真で検索すると「コスプレ」などと表示され、この機能は全く使い物にならなかった。「これは結構大変なことに取り組んだものだ。」と実感していった。大げさに、あたかも江戸時代の杉田玄白らが、『ターヘル・アナトミア』の単語1個1個を長い時間かけて訳出して『解体新書』に向かっているような気がした。
取り組む中で分かったのは、女性の民族衣装は、未婚者と既婚者で違うという地域が多いということ。島部は別にして、被り物やエプロンをするのは既婚女性だということ、鉢巻ではなく「ヘアーバンド」であり、それをしているのが未婚女性だということである。これは整理にたいへん役立った。
苦闘しつつ、推定も含めて何とか30くらいの衣装を特定できた。後で示すように、一般にエストニアは大きく4つの地域に分けられるが、その全域にわたって衣装が分かった。そのうちの一つである島部については、大きな島のものについては運よくすべて写真に収めていた。
次のページでは、アトランダムに並べたそれぞれの民族衣装の写真をクリックすると、その地域名、地図上の位置、推定した根拠、いくつかのものについては若干の説明などを見られるようにした。さらにその次のページでは、逆に、エストニアの地図上のそれぞれの地域をクリックするとその地域の民族衣装の写真が現れるようにした。ずっと見ていくと、当初、一見千差万別のように見えた民族衣装群も、4地域と重なるグループに大別されることに気付かれると思う。最後にまとめとしてそれに触れた。
私はあくまでも素人の、単なる綺麗な民族衣装愛好家(特に女性のものが好き)にすぎない。現在の衣装の地域特定や分類のみに終始して、その歴史的、地域的背景などまで深めていない。もしその分野の専門の方々がこのサイトをご覧になったら、ぜひ分析、研究していただきたい。また、私の地域推定の誤りがあれば、連絡をいただければと思う。